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日々のぼやき
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 神隠しにあった娘はきっかり三日後に戻ってきた。
 
 人伝てに聞いた話である。神隠しにあったことも、戻ってきたことすら知らぬから、その五日後に偶然会ったときは普段と変わらぬ応酬をしていた。誰に聞いたのか、どういった経緯で聞いたのかも忘れてしまったが兎に角神隠しだと聞いた。きっかり三日後に帰ってきた。帰ってきたその日の夜に家中の食い物を食い荒らした。
 
「貴様が何で此処にいるアル」
 神隠しにあったはずの娘は何も変わらぬ口調だった。駄菓子屋の前のベンチを陣取り乾き物を咥えている。額に色眼鏡を乗せていて、それはどうしたのだ窃盗かならアンタを逮捕しなけりゃなあこれはお巡りさんの仕事だぜぃと嘯いたらマダオにもらったのだと返された。
「久しぶりだと日差しが眩しいからこれは便利あるネ」
 日差しが眩しいからマダオに貰ったヨ、というそれは借置というより恐喝だろう。言動が子供である。そのうえ隣に座ったら「何座ってるか」と睨まれた。
「名前は書いてありませんぜぃ」
「うっさいアル。私が先に座ったんだから此処は私の場処アル。分かったら其処からケツあげてさっさと消え失せるがヨロシ」
 子供の喧嘩だ。莫迦莫迦しくなったので殊更に膝を開いてどっかりと座った。娘は一瞬気配を鋭くしたものの、特にそれ以上のことはしない。色眼鏡を下ろし、空を見あげている。子供である。女というよりは小娘で、小娘というよりは餓鬼なのだ。乾き物を食む耳障りな咀嚼音に、小さな舌打ちをしてしまった。
「神隠しにあったんだって聞きましたぜ」
 舌打ちを隠し、そのついでに尋ねると娘は色眼鏡をした双眸で振り返ってこちらを見た。口元がいやらしく引かれる。飛び出した乾き物は唾液でてらてら濡れていた。
「羨ましいアルか」
「いや、全然」
「貴様には一生味わえない体験アル」
 娘は嗤い、ベンチを立った。踵を返す背中にふと取り換えっ子とかいう逸話を思い出した。
 
 神隠しにあった娘はきっかり三日後に戻ってきた。
 
 娘が何処にいたのか、誰も知らぬ。
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