luna y perroluna y perro
日々のぼやき
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ネウロが傷をつけて帰ってきた。
真夜中の事務所で、月明かりを背に窓から侵入してきた魔人は血塗れの姿をしていた。悠然とした表情にはべっとりと赤黒い血がこびりついていて、白目だけが浮きあがっている。翡翠色のひとみが無感情に弥子を見おろしていた。道端の石を眺めるような視線だ。
「どうしたの、それ」
トリートメント中のあかねちゃんを手放して尋ねると、「ちょっとした手違いがあってな」とつぶやく。特に感情をもたせない口調が、逆に拗ねた子供のようだと弥子はおもった。
多分サイとでもやりあったのだとあたりを付ける。今回関わった事件には、かの怪盗が絡んでいたのだ。人外の戦闘に巻き込まれるのは真っ平ごめんだと弥子はそうそうに退散したが、そのあと予測どおり凄惨な戦いが繰り広げられていたらしい。
ただ、ネウロが痛めつけられるとは予想外だった。返り血かとも思ったが、どうやら全てネウロの血らしい。窓枠から降り立ったネウロの片足がざっくりと抉れて赤黒いなかに白い骨が見えていた。あまりの光景に弥子はくらっとして、そのうえ左手がもげているのを目にしてその場に倒れこみそうになった。
「サイにやられたの…?」
眩暈をおぼえながらも尋ねると、「いいや、ちょっとした手違いだ」という答えが返ってきた。どんな手違いがあれば片手がもげるのか、是非おしえてほしいところだ。そのうえ何の手違いで足の肉をそっくり抉られたのだろう。
「ひと晩寝れば治るだろう。見た目ほどは酷くない」
「いや、どう見たって酷いから、それ」
もう何からつっこんでいいものやら。頭をかかえる弥子の脇におりたった魔人は平然とした素振りで何かを弥子の前に投げ捨てた。月明かりに照らされたそれはもげた手首の先で、血がぬらぬらと光っている。床に血と肉があたる、べちょっという音が生々しく聞こえて、弥子はこみあげてきた吐き気を唾を呑んでやりすごした。
魔人と付き合ってからはある程度のスプラッタにも慣れたつもりだったがこれはきつい。唇を両手で覆った弥子を面白そうに見おろして、魔人はいっそ爽やかなほどの微笑みをうかべた。
「おや、先生には少し刺激が強すぎましたか? 顔色がかなり悪いようですが」
他人がいないのに外面が良くなるとき、魔人はきまって機嫌がわるい。ちらりと見るとこちらを覗きこむネウロの表情はやわらかな笑みをうかべていたが、瞳だけが笑っていない。硬質なかがやきを見せる虹彩を見てとって、どうやら本気で機嫌がわるいようだと悟った。不本意な怪我に苛立っているのだろうか。かといって諾々と八つ当たりをされるいわれは無いので、弥子は目をそらして瞳を伏せた。
飲み込んだ唾液はひどく酸っぱい。血のにおいが咥内にべっとりと貼りつく気がした。
ネウロがうごく気配がする。血の臭いが濃くなって、次の瞬間にはほほに生暖かいものが触れた。
べっとりとした血と肉の感触。骨の固い感触までリアルに感じた。途切れた手首が弥子のほほをさする。皮膚に血が濃くからみついた。
「なぁ、ヤコ」
魔人は歌うように呼びかけてきた。返事をしない弥子を咎めることもしない。ねっとりとしたネウロの肉の感触に眩暈がおこった。くちびるが小刻みに震える。
「貴様の手首も取ってやろうか」
ネウロの言葉は子供みたいに、純真な響きをおびていた。いいことを思いついた、そう告げるネウロは先程までの機嫌のわるさなどとうに忘れ去ったようだった。いや、それは仮面で、本当はまだ不機嫌なままで弥子をつかって腹いせをしているだけかもしれない。どちらにしろ、頬をさする毒々しいまでの感触は変わらない。
ネウロの血。肉。
普段、ネウロから生というものを感じることは殆どない。人形のような顔立ちや無機質な雰囲気は、まるで作り物のようだった。けれど血を流すネウロからは確実に「生」を感じる。グロテスクなパラドックスだ。
ネウロの血と肉。
眩暈をおぼえた。ネウロの血のにおいが弥子の体内をゆっくりと侵す。ネウロの声が、どこか遠くで聞こえていた。
「貴様の手首を取れば、我輩とおそろいだ。ペアルックとかいうのだろう。面白そうだな」
「……」
血と肉と、生きているネウロ。
自分は、この魔人に身体を千切られるだろう。
血の臭いに塗れた弥子は、その未来に思いを馳せた。それは自分でも驚くことに恐怖や苦しみなど殆ど感じないまるで甘美な想像だった。
終わり。
→原作のネウロを見ていると思うのですが、あの人がきれいなのは「謎」を喰っているときと血を流している時だな、とか。何が書きたかったのかというと「二人でもげた手首でペアルック」という部分です。最悪ですね…! どんな悪趣味なペアルックなんだ。そもそもペアルックという単語を何処で覚えてきたんだ、この魔人は。今の日本にそんな単語が現存していたのか。
真夜中の事務所で、月明かりを背に窓から侵入してきた魔人は血塗れの姿をしていた。悠然とした表情にはべっとりと赤黒い血がこびりついていて、白目だけが浮きあがっている。翡翠色のひとみが無感情に弥子を見おろしていた。道端の石を眺めるような視線だ。
「どうしたの、それ」
トリートメント中のあかねちゃんを手放して尋ねると、「ちょっとした手違いがあってな」とつぶやく。特に感情をもたせない口調が、逆に拗ねた子供のようだと弥子はおもった。
多分サイとでもやりあったのだとあたりを付ける。今回関わった事件には、かの怪盗が絡んでいたのだ。人外の戦闘に巻き込まれるのは真っ平ごめんだと弥子はそうそうに退散したが、そのあと予測どおり凄惨な戦いが繰り広げられていたらしい。
ただ、ネウロが痛めつけられるとは予想外だった。返り血かとも思ったが、どうやら全てネウロの血らしい。窓枠から降り立ったネウロの片足がざっくりと抉れて赤黒いなかに白い骨が見えていた。あまりの光景に弥子はくらっとして、そのうえ左手がもげているのを目にしてその場に倒れこみそうになった。
「サイにやられたの…?」
眩暈をおぼえながらも尋ねると、「いいや、ちょっとした手違いだ」という答えが返ってきた。どんな手違いがあれば片手がもげるのか、是非おしえてほしいところだ。そのうえ何の手違いで足の肉をそっくり抉られたのだろう。
「ひと晩寝れば治るだろう。見た目ほどは酷くない」
「いや、どう見たって酷いから、それ」
もう何からつっこんでいいものやら。頭をかかえる弥子の脇におりたった魔人は平然とした素振りで何かを弥子の前に投げ捨てた。月明かりに照らされたそれはもげた手首の先で、血がぬらぬらと光っている。床に血と肉があたる、べちょっという音が生々しく聞こえて、弥子はこみあげてきた吐き気を唾を呑んでやりすごした。
魔人と付き合ってからはある程度のスプラッタにも慣れたつもりだったがこれはきつい。唇を両手で覆った弥子を面白そうに見おろして、魔人はいっそ爽やかなほどの微笑みをうかべた。
「おや、先生には少し刺激が強すぎましたか? 顔色がかなり悪いようですが」
他人がいないのに外面が良くなるとき、魔人はきまって機嫌がわるい。ちらりと見るとこちらを覗きこむネウロの表情はやわらかな笑みをうかべていたが、瞳だけが笑っていない。硬質なかがやきを見せる虹彩を見てとって、どうやら本気で機嫌がわるいようだと悟った。不本意な怪我に苛立っているのだろうか。かといって諾々と八つ当たりをされるいわれは無いので、弥子は目をそらして瞳を伏せた。
飲み込んだ唾液はひどく酸っぱい。血のにおいが咥内にべっとりと貼りつく気がした。
ネウロがうごく気配がする。血の臭いが濃くなって、次の瞬間にはほほに生暖かいものが触れた。
べっとりとした血と肉の感触。骨の固い感触までリアルに感じた。途切れた手首が弥子のほほをさする。皮膚に血が濃くからみついた。
「なぁ、ヤコ」
魔人は歌うように呼びかけてきた。返事をしない弥子を咎めることもしない。ねっとりとしたネウロの肉の感触に眩暈がおこった。くちびるが小刻みに震える。
「貴様の手首も取ってやろうか」
ネウロの言葉は子供みたいに、純真な響きをおびていた。いいことを思いついた、そう告げるネウロは先程までの機嫌のわるさなどとうに忘れ去ったようだった。いや、それは仮面で、本当はまだ不機嫌なままで弥子をつかって腹いせをしているだけかもしれない。どちらにしろ、頬をさする毒々しいまでの感触は変わらない。
ネウロの血。肉。
普段、ネウロから生というものを感じることは殆どない。人形のような顔立ちや無機質な雰囲気は、まるで作り物のようだった。けれど血を流すネウロからは確実に「生」を感じる。グロテスクなパラドックスだ。
ネウロの血と肉。
眩暈をおぼえた。ネウロの血のにおいが弥子の体内をゆっくりと侵す。ネウロの声が、どこか遠くで聞こえていた。
「貴様の手首を取れば、我輩とおそろいだ。ペアルックとかいうのだろう。面白そうだな」
「……」
血と肉と、生きているネウロ。
自分は、この魔人に身体を千切られるだろう。
血の臭いに塗れた弥子は、その未来に思いを馳せた。それは自分でも驚くことに恐怖や苦しみなど殆ど感じないまるで甘美な想像だった。
終わり。
→原作のネウロを見ていると思うのですが、あの人がきれいなのは「謎」を喰っているときと血を流している時だな、とか。何が書きたかったのかというと「二人でもげた手首でペアルック」という部分です。最悪ですね…! どんな悪趣味なペアルックなんだ。そもそもペアルックという単語を何処で覚えてきたんだ、この魔人は。今の日本にそんな単語が現存していたのか。
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