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luna y perroluna y perro
日々のぼやき
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 うつむいた横顔とかまぶたとか眉毛とか笑窪とか目尻がさがるくせとか面倒くさいときにこめかみを抑えるのも全部知っているからとても辛いんだ。なにを考えているのかとか全部わかってしまうからとても辛いんだ。
 
 ひょろっとしている人は如何して猫背になってながい首がまるまっているんだろう、とおもった。寝ているときも背中がまるまっているからちょっと笑える。ながい首のとなりに手をおいてみたら手のひらくらい首がながかった。
 さわってみる。滑らかな肌を伝ってくびをなでてから頚椎にふれる。ぽっこりと凹んだ部分がすこし淋しかった。すこしちからを入れればこの人は死んでしまう。ぎゅっとちからを入れる。ゆびが肌をつきやぶる。目を閉じてその様を想像した。ビニイル人形みたいに破けたこの人の肌とのぞいた頚骨と脈と肉と。肌の破れ目にゆびを差し込んで頚骨をつかんで引っ張りあげる。そうすればこの人は屍んでしまって一生此処から動けなくなって一生ずっと此処に居てくれる。そばに居てくれる。それを望んでいる自分がすこし淋しかった。
 頚椎。くび。あたま。髪をゆびでなでると起きそうで起きないような息をした。それを聞いてから夕べのことを思い出した。この人のうつむいた横顔とかくびにくっ付いたおとがいから垂れた汗の球体とか伏せられた花色のまぶたとか寄せられた眉毛とかちからのこもった笑窪とか目尻が一瞬ながくなる表情とか。
 こめかみをぎゅっと抑えたゆびさきとか。
 
 全部知っているからとても辛いんだ。
 君がなにを考えているのかとか。
 
 全部わかってしまうからとても辛いんだ。
 
「・・・別れたいのなら別れて良いよ。」
 全部わかってしまうことがこんなに辛いなんて思わなかった。へこんだ頚椎の野性的なライン。こしを屈めて其処にキスをした。凹んだ皮膚のびみょうなカーヴがくちびるに確固りと重なってそれがすこし淋しかった。まるでキスをするためにカーヴが存在しているようだ。頚椎。此処にかじりつけばこの人は死んでしまうのだろうかとぼんやり思った。此処にかじりついて流れる血をぜんぶ吸ってしまえばこの人のなかに流れている血は全部とぎれてこの人は蝉の屍骸みたいにからからになって、ずっと側に居てくれるのだろうか。
 でもそんなことはしない。出来ない。出来そうもない。
「止めはしないよ。」
 こめかみを抑えるゆびさき。面倒なときのくせだというのは知っている。全部知っている。頚椎のびみょうなラインさえもくちびるに重なって記憶にのこる。
「でも、」
 どうしてだろうどうして全部わかってしまうんだろう自分はこの人のことが好きなのだろうかそれともころしたいのだろうか側にいてほしいのだろうか。
 
「愛していたよ。」
 
 最後のキスは、命をえがく線に落とした。
 
 
 
 恋人を壊すことを夢みた。
 赤黒く錆びた満月の夜。
 
 
 
 心臓、足先、ゆびさき、背中、肋骨、頸動脈、眼球、そして頚椎。
 相手をころしたいと願うのは究極の思慕の表れだ。
 いつだって恋人の脈動をおもう。
 それが止まるしゅんかんを祈る。
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 志貴と寝るのは好きだ。
 と、アルクェイドは思う。思うたびに、ちょっと今更なことだな、と苦笑まじりになるものの兎に角志貴と寝るのは楽しい。それが志貴相手だからか、それとも行為自体が性に合っているのかは判別しがたい。この世に生れ落ちて数百年が経つがこういった行為をしたことはなかった。したいとも思わなかったし、相手もいなかった。
「……あっ、」
 甲高い声が漏れた。濡れた志貴の一部がずぶりと中に入り込む。容赦なく内膜を擦る。その感覚をとらえようとして腰を揺らすと志貴がより深くに這入ってきた。
 荒らされる自分。犯される領域。
 生きている匂いのする志貴の肌と共に、それらの感覚はアルクェイドの本能を痺れめいた熱さで掠めていく。志貴に殺されたときの感覚と酷似している。たかがナイフで数十の肉片にされた、あの快感にも似た「死」に似ている。
「もっと、」
 催促すると、頭上から篭った溜め息が聞こえた。霞んだ視界をこじあけて見上げれば志貴が熱のこもった双眸でこちらを見ていた。呆れたようにも思える。そういえば以前、もっとオブラートに包んだほうがいいとかそんなことを言われた気がする。
 虹彩はやけに明るく、そして奥底はひどく深い。直死の魔眼だ。志貴には今「死」が見えているのだ。摂理に反した自分の死が。
 そう思うと全身が震えた。両腕で志貴のくびを掻き抱くと志貴の一部がぶるりと震えた。奥をつつかれてまた声が出る。断末魔のようだとぼんやり思う。
「しきぃ…」
 名前を呼ぶと、間近で「吸血鬼みたいな目だ」と囁く声がした。自分の目だ。魔眼に貫かれる紅い眸。
 そうか、本能になっているのだとようやく気付く。自制が生きる術である真祖だからこそ、本能に陥ることはまずないと言ってよかった。
 これが本能か。
 アルクェイドは思う。
 熱くて、苦しくて、浮かび上がりそうなほどに気持ちがいい。これが本能だというのなら魔王に堕ちても構わなかった。
「しき、」
 呼びかけるといっそう強く荒らされた。アルクェイドは薄くわらう。たぶんまた志貴は淫乱だと呆れるのだろう。それも良いかという気分になった。
 
 志貴と寝るのは好きだった。
 志貴と寝るたびにアルクェイドは朱い月の影を見ては、死の線に貫かれる。その生と死を愉しんでいるのだと、彼女自身はまだ気付いていない。
 
終わり。
 
 死徒の生活はそれほど不便とは思わない。吸血鬼というと人殺しというイメエジが在るが、気を付けていれば人を殺さずに血を吸うことだってできる。最近では血の持ち主に気付かれる前に食事を終わらせる事もできていた。
 昼間の太陽はすこし辛いが、小説や御伽噺のように灰になって消えたりはしない。どちらかといえば灰になったほうが楽なのかもしれないが――さつきは生きている限りは生にしがみつこうと決めていた。自分が生きているのか死んでいるのかは微妙なところだったが。
 とりあえずお話の中のドラキュラみたいに、自分の存在を悲観的にうけとめることはしたくない。
 
 学校に行けなくなったことは少し辛い。あと食べ物の味がよく分からなくなったこと。目がみえすぎて見たくないものまで見てしまうこと。まだ実害は無いものの、一生未成年の外見なので仕事を見つけることもきっと容易ではないだろう。食費はかからないものの、おんなのこには何かとお金が必要なのだ。
 それから辛いことといえば、夜が長いことだろうか。死徒は眠ることをしない。他人が眠っている時間を一人ですごすことの孤独を、さつきは死徒になって初めて知った。
 一人の夜を数え切れないほど過ごして、そのたびに苦しんで、気が付けば知り合いは誰ひとり居なくなっていた。それほど長い時が流れたのだ――気が付くたびにさつきは元クラスメイトの穏やかな笑みを思い出す。
 あのひとと一緒に居られれば。
 何度も頭に想い描いては振り払った想像だった。そうして夢想しては諦め、二の足を踏んでいるうちに彼は居なくなってしまった。
『弓塚さん』
 彼が呼ぶ声を思い出すたびにさつきは叫びそうになる。身体を巡る呪われた血が一気に沸騰して全身を揺らす。
 殺してしまえばよかった。
 仲間にしたいとは思わない。ただ彼を殺して、彼の時間を止めてしまえればよかったのに。そう思うたびにさつきの目からは涙がこぼれる。死徒は涙を流さない。摂理に反したその雫は、彼の鮮血を思わせる深く暗い赤色をしていた。
 
終わり。
 近付き過ぎた熱は昏い眩暈を引き起こした。細い大腿を片手で掴み骨が軋むほどに広げる。白い皮膚は青白い照りを帯びて網膜にいやらしく焼きついた。大腿の線はなまめかしい曲線と薄い肉を想像させる滑らかな直線に満ちている。
 痛い、というこえは嘲笑を含んでいた。橙色の髪は白い首筋に張り付き流れる汗の発する熱と月光の反射を受けて艶のない血の赤にも見える。それら全てを眺め尽くしてから軟らかい肩を手で掴んだ。
 白い肌と充血の赤いうねり。嗚呼、とナミが甲高くこえを漏らした。薄い皮膚は爪に抉られ鉄錆びのにおいを漂わせる。下等な、人間らしいその匂いは好きではない。だが片手でも余る薄い肩を解放しようとは思わなかった。陰のよぎる肢の間に肉塊を宛がう。汗が深く昏い匂いを周囲に撒き散らした。澱んだ汐と錆びた鉄。熱が与える隙のない苦痛にナミのひとみが幾分か細まり、顔が醜く美しく歪んだ。形の良いくちびるが拉げ、濡れた歯と赤い舌が露わになる。
 
「…莫迦じゃないの、」
 
 くちびるは確かにそう蠢いたが息は声にはならず喘ぎの吐息にとって変わった。白い息すらも月光を受けて薄ら恐ろしい青白さに染まっていた。血の滲む肩から細い首へと、手を移動させる。血色に染まった掌で細く脈の浮き出たくびを絞めた。
 赤みを帯びたかおはやがて苦しげに歪んだ。脈が手の内で踊っていた。粘液が零れくびすじの稜線を汚らしく濡らす。指の合間、半透明な膜に透けて頸動脈が薄らと見える。赤く細く自己主張を続ける脈。それを止めてしまいたいと願いながらまろい肉体を陵辱した。
 
「莫迦じゃないの。」
 
 確かにナミのくちびるはそう動いた。しかし声は聞こえなかった。暗闇は全てを覆い隠す。澱んだ汐と錆びた鉄が、熱を帯びて眩暈を齎した。十分に絞めつけてから手を離す。流石にナミは小さな咳を幾つか吐いた。それが収まると楔を穿たれたまま、だらりと四肢を投げ出した。月光。肉体。直線と曲線の入り乱れた大腿には白い体液にまみれている。ナミは四方に視線をうつし、逆さまの月を目に留めてからゆっくりとその瞳を閉じた。睫毛から落ちる暗色の陰が、長く頬を過ぎって消えた。熱に耐えるようにと細い息を散らしながら辛うじて声になる喘ぎをあげる。
 
「もっと挿れなさいよ。」
 
 分かってるんでしょう、とナミの瞼が蠢きを見せる。眼球の丸みを帯びた皮膚は花のような薄紅色で、同時に虫のような昏さも見せた。鱗の蔓延るてのひらで白い胸の中心に熱を与えると、ナミはそんなことは望んでないのよ、と理性を帯びた声色で云った。
 
「もっとぐちゃぐちゃにしなさいよって云ってるのよ。あたしの躯をあんたの汐臭い体液まみれにして、ぐちゃぐちゃに壊してって云ってるのよ。」
 
 分かってるんでしょう、と。
 
「殺せば良いのか、」
 
 問う。ナミはますます唇を歪めた。嘲る表情で瞳を見開き、莫迦ね、と優しく微笑んだ。投げ出された四肢のうち右手がゆるやかに上がり、空気のようにほほに触れた。鱗も汐の体液も、冷たい触感すらない異形な質感。熱を持つゆびさきが鰓を引掻き、去ってゆく。首筋の鱗を幾枚か剥ぎ取り、手は静かに胸元へと辿りついた。青銀色の鱗がこぼれてゆく。硝子みたいだわ、とナミは云い、それから感慨深げに「冷たいのね」と呟いた。
 
「……殺すよりも簡単でしょう?勃起するだけだもの。」
 
 ナミが笑う。唇の端から唾液が零れた。唾液すら熱を帯びているのか白い蒸気が昇っている。
 
「…その、鱗の付いたあんたのものを、もっと深く挿れれば良いのよ。」
 
 
  
 水面に映る月は逆の世界。
 
 近付き過ぎた濃い熱は、水面を挟んだ逆側の世界。
 ネウロが居なくなってもう五年が経つけれどママはまだネウロのことを忘れていないようだった。
 ママとわたしは、五年前のあの最後の日に三人で行った海岸に必ず足を運んでいた。海水浴の季節からは外れているのでいついっても砂浜は閑散としている。
「誰も居ないね。」
 と、ママはシートを広げながらぽつりと云った。わたしは手ごろな石を探してシートが飛ばされないように四方に置く。
 潮風で髪がぐちゃぐちゃになる。手で梳くと、既にべったりした感触があったのでそれが気持ち悪かった。ママが行くから仕方なく付き合っているけれど、わたしはネウロにそれほど良い思い出を持っていない。ネウロが居なくなってもわたしは全然さみしくなかった。
 この世に生まれてからもう十五年が経つけれど、ネウロが父親だと思ったことは一度も無い。籍も入れてないことを理由に「パパはわたしが小さい頃死んだんだ」と周りには説明していた。そんなわたしの言い分をママは知っている筈だけど、それについて何かを言ったりはしない。そういえばネウロが父親だと明言されたことも無いので、本当に、父親は死んでいるのかもしれなかった。
「今日のおむすびはたらこと鮭とおかかと梅干し。」
 と、ママが重箱を開けて言った。ふたりで大食いなのでお弁当は五人前くらいある。
 五年前のあの日も、お弁当の中身はおむすびだった。ママとわたしが全部食べて、ネウロはとなりでそれを見ていた。
 あの頃、わたしは人の好悪もうまく付けられない子供だったけど、ネウロのことははっきり明確に嫌いだった。蔑む視線も、罵る口調も、わたしからママを奪うところも。
 居なくなれば良いと思っていた。いつもそう思っていた。
 
 おかかのおむすびを手にとって、ママのとなりに腰をおろした。ママは水平線を眺めている。サーファーが遠くで泳いでいる。波に乗りかけて、水中に沈む。
「ママは、」
 何となく、口を開いた。鮭のおむすびを頬張ったママが「ん?」と口をもごもごさせたままこちらを向く。
「ネウロが帰ってくると思ってるの?」
「……」
 無言でおむすびを飲み込む。ちょっと子供っぽい。しばらく考え込んでから、「まだ帰ってこないと思う」とはっきり言った。
「まだ? どうして?」
「それがネウロとの約束だから」
 約束、とママはやけにその単語をはっきり言った。海に視線をもどす。ママの横顔は五年前から成長を止めてしまったみたいだ。
「わたしがネウロをこころから必要とする時まで、ネウロは戻ってこないんだって。だからまだ帰ってこない。わたしはまだ、ひとりで頑張れると思うから」
「……」
 ものすごく厭な事実を聞いた気がした。おむすびを飲み込んでから舌打ちをした。
「どうしたの?」
「別に、」
 手についてしまったご飯粒を払って落とした。潮風が肌にべっとり貼りつく。感触の悪さにわたしはもう一度舌打ちをした。
 ネウロのことを思い出した。大嫌いなネウロ。わたしからママを奪っていくネウロ。
 もうすぐ奴は帰ってくる。そう思うと胸がむかむかした。まったく、最低な約束をしたものだ。ママが必要とするまで、戻ってこないだって?
 となりのママを盗み見る。ママは髪を手で押さえて、ぼんやり海を眺めたまま。瞬きをしないひとみが潤んでいた。ネウロが居なくなってからママは瞬きをあまりしなくなった――その理由に気付いているのは、たぶん世界でわたしだけだ。
 
 寂しさに溢れそうな涙を、こらえているのだ。
 
 畜生、とこころのなかでネウロに唾を吐きかけた。厭な奴。最低な奴。あいつは勝つと分かっている勝負をママに吹っかけたのだ。約束、なんて言葉でごまかして。
 ママがネウロを必要としないはずが無い。五年前はまだ子供だったわたしでさえその事実に気付いたのだ。あのネウロが気付かないはずが無い。
「厭な奴」
 呟いて、次のおむすびを口に放った。口の中が冷たいご飯でいっぱいになって、噎せそうになって涙が出た。
「ちょっと、大丈夫?」
 ママが尋ねる。頷きながら、ネウロが戻ってこないことを祈っていた。
 
 わたしはネウロが嫌いだった。居なくなれば良いと思っていた。ママを奪うあのおとこを殺したいほど嫌いだった。
 
 ママのネウロを見つめる視線に気付いた。だから、嫌いだったのだ。
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