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luna y perroluna y perro
日々のぼやき
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 例えばあのひとの足の形はとてもきれいで、ぼんやりと「足の形に生まれが出る」ということばを思い出したりなんかした。わたしの足は膝の内側の骨がでっぱっていて少しだけみっともない。姉さんの足はきれいなものなのに不思議だといつでも思う。
 
 
 例えばこの家にひきとられたばかりのころ、わたしは時どき姉さんがいなければいいとか思っていた。自分と似た顔が自分とおなじくらい孤独な境遇におちっている図なんてあまり見たくなかったからだ。姉さんがいなければ、例えば実はわたしはすっごくお金持ちの――この遠野の家の子供なんじゃないか、とか想像する事ができたけれど、自分と同じ顔の姉さんがメイドをやっているということは、わたしはやっぱりただの捨て子なのだろうな、と納得したりして。
 姉さんなんかいなければいい、とおもっていた。
 姉さんが大好きなのに、不思議なものだ。
 
 例えばこのごろ、わたしはよく秋葉さまも姉さんもいないこの家を想像したりする。広い家は掃除が大変そうだけれど、わたしは掃除が好きなのでけっこう頑張れると思う。洗濯ものは少ししかないから楽だろう、料理は――何とか頑張りたいとおもう、とか、ぼんやり想像しては胸がわくわくする。秋葉さまも姉さんもいないこの家で、あのひとを独り占めできたらどれだけ幸せだろう――朝起きるときも、夜寝るときもあのひとのとなりで。誰も居ない、ふたりだけの空間で。
 この家にはわたしとあのひとしかいらないと思う。
 秋葉さまも姉さんも大好きなのに、不思議なものだ。
 
 例えばわたしは、すごくいやな人間なのだと思う。姉さんがいなくなればいいとか、秋葉さまがいなくなればいいとか平気で考えてしまえる人間。
 
 例えばあのひとは、こんなわたしを見たら何ておもうんだろう。
 
 例えば、例えば、例えば。
 
 それは夢の中でだけ、願いが叶う不思議な呪文だ。
 
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 俺の目を見ろ。その男はそう囁いた。
 白く切り取られたような月が空に浮かんでいた。細い雨がしずかに降りつづけて地面に弾けて淡い霧をつくりだす。瞬きをくりかえす街灯の下で、濡れた男の体の線が浮かぶように白く映える。濡れた髪が男のほほにぴったりと貼りついていた。その隙間からのぞく漆黒のひとみ。それを見てはならないと、男に会った瞬間から気が付いていた。
「見ろ。貴様の好物だろう?」
 男は手に持ったナイフを握りなおした。その言葉に一瞬かおをあげかけたが寸でのところで視線を逸らす。男を見てはならないと強く思った。男はこの世に存在し得ないものであり、そしてまた同時にこの世の核をなす存在だった。見れば崩壊させられるだろう――自分も、そして自分が形作ってきた世界という名の運命の全ても。
 雨が地面に降り注ぐ。雨音。細い線を描く雨は音もなく蒸発する。それで自分が血を解放させていることに気が付いた。男は笑う。唇を微かに歪める笑みは、あの人とはまるで対極の性質しかもちえないのに何故かあの人の穏やかな笑みを思い出させた。
「雨を弾くのか。なかなか便利だな」
 明らかに、濃く呪われた血の存在を莫迦にしている口調だった。唇をかみ締めて男を睨む。決して目は合わせないように――しかし男の動きにすぐ対応できるように足をにじらせた。靴越しだというのに濡れた地面が瞬時に乾く。男はゆらりと腕をあげ、ナイフを視線の高さで構えた。
「俺の目を見ろ」
 光るナイフの奥にあるふたつの瞳。ナイフの下にある唇が薄く開かれ誘うように舌なめずりする。
「あの甘ちゃんと同じ目だ。貴様はこの目が、欲しくて欲しくて仕方ないんだろう?」
 歌うような言葉が鼓膜で渦を巻く。意味を理解した瞬間、体中の血が沸き立った。視界をさえぎっていた髪が一気に紅くなる。解放は膜を一枚脱ぎ捨てるようなものだった。罅割れる自分の体、自分の力。咽喉奥から獣のようなうめき声が漏れ聞こえ、それを何処か遠くで聞いている自分がいた。
「…あなたは兄さんではないわ」
 声はあえかにさえ響いた。男は獣じみた笑みを浮かべて。
「同じだよ。俺の目を見ろ。同じ眸だ」
「…そうかもしれませんわね」
 男の言葉を肯定して、そこでようやく視線をあげた。降り注ぐ雨。張り詰めた空気。その向こう側に黒いふたつの瞳があった。深淵ほどに暗い双眸。ふたつの死。彼女は笑った。
「なら、その目を抉り取って差し上げるわ」
 
 その目の持ち主は一人だけだ。
 
 宣言した瞬間、あの人の静かな双眸を思い出した。
 
 
おわり。
 酒の匂いが空気を濁らせていた。だれかの喧騒が遠くに聞こえて、だれかの笑う声が別世界のように幕一枚へだてて聞こえた。誰かがコップを倒す音。誰かがテーブルにぶつかってこける音。お酒を呑んだ人たちというのはどうしてこう煩いのだろう、とさつきは思った。けれどそれは決して、いやらしい五月蝿さではなかった。
 例えば部屋の中から、通りの祭りを見下ろすような感じに似ている。人が笑っているのを見るのは好きだった。浮き足立った空気がこちらにまで漂ってきて、その空気に心まで浮かされるようだ。
 壁に背をつけてグラスを傾けているととなりに誰かがやって来る気配がした。誰か、というけれどさつきにはそれが誰かすぐに分かった。彼の足音、彼の気配。それらは周囲に埋没してしまうような平坦なものだったけれど、けれどある一瞬でその気配や立てる動作が特別なものに変わる。清浄な水が一瞬ぬるまゆになるような。下腹部がやわらかく温まるのを感じて、さつきは唇の端でほほ笑んだ。
「何わらってるの、」
 彼がとなりに腰を下ろした。胡坐をかいて背中を壁にそっとつける。彼は元々の体質のせいか、静かで穏やかな所作をする。さつきはグラスに残っていたジュースを飲み干すと隣をむいた。ついこの間、左のほほににきびができてしまったのでそれを隠すように髪をゆらす。右側に座ってくれればいいのに、と心の隅でおもっていた。
 左側の世界、彼は自然な表情でこちらを見ていた。眼鏡の奥にあるひとみがいつもより幾分か和らいでいる。赤らんだ目元がまるで酔っているようにも見えたけれど、彼が酒類を口にできないことは周知の事実だ。彼の体質を知っている周囲も酒をすすめることはしなかったので、彼は烏龍茶のペットボトルをマイボトルとしてキープしていた。
「弓塚さんは、お酒のまないの?」
「未成年だから」
 さつきの応えに彼は笑った。この状況ではあんまり説得力のない答えだ。視界の端ではクラスメイトの乾くんがビールの一気飲みを披露していた。
 クラスメイトだけのささやかな新年会。最初はお菓子とジュースだけが廻っていたその場に、紙袋いっぱいのお酒とおつまみを持ち込んだのは乾くんだ。お姉さんに無理やり持たされたのだ、と言い訳をしていたけれど、父親の晩酌に付き合っているのだと一番量を飲んでいるのも乾くん。さつきはといえば、乾杯のときに呑んだカクテルジュースだけで世界が廻ってしまった。時間がたった今でも少しだけ、世界がゆらゆらと揺らめいている。
「本当はね、一杯だけで酔っ払っちゃったの」
 正直に白状すると彼は「そうなんだ」と優しげに応じた。
「初めて呑んだんだけど、もうこれ以上は無理。だからそれからずっとジュース……でもちょっとまだ酔ってる。お酒って残るんだね。知らなかった」
「そっか」
 彼の応えに、さつきは自分のことばが見当違いだったことを自覚した。彼はお酒を呑まないのではなく、呑めないのだ――慌てて手を振ってことばを重ねた。
「でもお酒なんか呑まなくても、ここにいるだけで愉しいよね。もう殆ど醒めてるけど、空気に酔ってる感じ?」
「ああ、なるほど」
 彼は眼鏡の位置を直して頷いた。
「空気に酔ってる……か。そうかもしれないね。何だか意識が、いつもより軽いし」
 僅かに眼鏡を外す。彼がそういう動作をするのをさつきは何度か見たことがあった。そして眼鏡をかけてない彼は、ひどく孤独そうな、寂しげな表情をみせる。そのことにも前から気付いていた。眼鏡ひとつのことなのにまるで彼が別人のようにも見える。けれどどちらの彼も、同等にさつきの心の底をゆさぶる。
 彼は眼鏡を外したひとみで自分のてのひらを見下ろした。眼鏡を外した彼は他人を見ようとしない――さつきはそのことにも気付いていたので、少しだけ、自分のことを見てくれればいいのにと思った。彼は一体どんなひとみで自分を見て、どんな表情をするのだろう。想像するのは愉しかった。そして何処か、怖ろしくもあった。
「いつもより…」
 彼のことば。さつきは一瞬だけそのことばの意味を掴みかねて呆けてしまった。彼は眼鏡をかけなおしてさつきにいつもどおりの笑みを向ける。
 
 気のせいだ。
 
 さつきは聞き取った微かな囁きを霧散させた。浮き立った空気が彼のことばを濁らせたのだ。そう思うことにした。
 
『いつもより、簡単に壊せそうな気がする』
 
 それは彼らしくない――むしろ対極なほどに無慈悲な響き。けれどさつきは、彼になら壊されても構わないと思っていた。
 
 
おわり。
 
弓塚さつきさんは坊ちゃんを前にするといっぱいいっぱいになってしまって、失言とかしちゃってあわあわしているのがステキだとか勝手に思ってます。有彦さんの苗字が分からずコミックスを見直してしましました、が結局わからず…!乾君だった気がする。気のせいかもしれませんが。
 嗅覚は鋭い。常人には在り得ない独特のその感覚は、日常に満ちる匂いはともかく異能の者をよく嗅ぎ分けた。
 生きる為の術なのだと思う。この世界で混血の血を守るためには闇に潜むさまざまな敵を見極めなければならなかった。当主としての定めだと、そうして自らの生きる領域を確保しなければならないのだと、自覚するたびに自らの存在が矮小であると思い至る。
 世界から疎外されているのだ、本来ありうるべき姿ではない。
 
 そのおとこを見た瞬間、感覚は刃のような鋭さをもって脳髄を刺激した。存在すべきではない存在――おとこと良く似たひとを知っていた。よく似た、どころではなく目の前に佇むおとことかの人は明らかに表裏一体ほどの近しさを持っていた。表と裏。過去と現在。なのに雰囲気はまるで違う。かのひとが包み込むような眼差しで「秋葉」と呼ぶ、そのくちびると寸分違わぬくちびるが蔑むように歪み「おんな」と呼んだ。
 侮蔑の響きを伴った口調。こちらを見下す濃い虹彩。
 吐き気がした。この世に居て良い存在ではない。あの人と全てを共有し尚且つ拒絶しあう存在など――嘔吐感は脊髄を駆け上がる熱になり、やがてそれは全身の皮膚を這っていった。髪の先が重くなり、熱が点る。その感覚はひどく心地よいものだった。毀していいのだ、と自らの奥底で暗く低い声が木魂して螺旋を描く。
「愉しいだろう?」
 おとこは唇を引き裂いてわらう。狂気に満ちた笑声に、紅く燃えた身体が跳ねる感覚を覚えた。殺したい、このおとこを。深紅に染まった視界のなか、佇むおとこを見据えて思う。
 おとこは特に緊張感もない所作で懐にそっと手を入れた。引き抜く。無骨なてのひらに小刀が握られていた。月の光を浴びて刀身が一瞬きらめく。あのひとも、同じ小刀を持っていた――大事そうに柄を握るあのひとの横顔を思い出した瞬間、目蓋の裏に白い残像が走って消えた。その残像の意味をことさらに考えることはしない。残像の消え去った目蓋の裏は闇一色で、その漆黒に恍惚にいどろられた言葉が重なった。
 殺したい。
 このおとこを。
 祈りにも似た意志が意識に侵食するよりも速く、肉体は反応していた。地面を蹴り、飛び上がる。脹脛の筋肉だけでおとこの上背よりも高く飛んだ秋葉を、おとこは興味深げに見上げていた。闘う気配は微塵も見せない。だが熱に包まれた手でおとこの頭を潰そうとしたその刹那、おとこの気配が掻き消えた。
 ゆびさきが地面を抉り、異能の熱がアスファルトを溶かす。腐ったガスのような臭い、煙。おとこの声が背後から聞こえた。
「面白いだろう、秋葉?」
 秋葉、と。
 歪んだ口調のなかで名を呼ぶその声だけは、あのひとの声に酷似していた。わざと似せたのだろう。檻髪を靡かせて振り向くと、おとこはまだ笑ったままこちらの様子を伺っていた。
「貴様は俺に似ているよ、」
「……それは酷い冗談ね。」
「似ているのさ、なあ秋葉」
 名を呼ぶな、そう罵りの言葉が唸り声になって咽喉外へと漏れ出した。おとこはわらう。赤い舌を、鈍く光る刀身に宛がう。
「貴様が殺したいのは俺なのか?」
 このおとこは一体何を言っているのだ。秋葉は口角をあげて「あなたよ」と告げた。
「兄さん以外は要らないのよ、この世には」
「違うだろう、秋葉?」
 秋葉、と。
 おとこは真綿のように言葉を和らげ。
 
「貴様がころしたいのは向こうの七夜だ。貴様はあの眼が欲しいのだろう?」
 
 ――秋葉。
 
 おとこのことばに誘われ、一瞬だけ、あの人のひとみを抉る夢を見た。
 
 
終わり。
 
→勝手な設定として、秋葉さんは坊ちゃんの眼が欲しくて欲しくて仕方が無いとか内心思ってますみたいな感じでいきたいのですが如何でしょう。(如何でしょうって)でも坊ちゃんを前にすると傷つけることはできなくて、だから七夜の前だと普段は押し殺している殺意が満開になるんだぜ!みたいなのが燃えると思います。…微妙ですか。微妙ですね!ていうか元ネタ台無しですけどね!
→とりあえず秋葉さんを闘わせようとか思ったのにまた闘ってません。跳ばせてはみたけど逃げられてますしね! お嬢様の足技とか書きたいと思ったら無理だった。何かこう、プレイしてる最中はコンボとか書けそうだなーとかぼんやり思うんですが。
 神さまにおねがいしたら望んでいたことが叶いました。
 
 だから、これは
 
 
 神さまの所為。
 
 
 朝日のなかで寝顔をじっと見ていたら意外と睫毛がながいことに気がついた。いつもは眼鏡の奥に隠れているから知らなくて、こうして寝顔を見るのは初めてではないけれど、こんなに近付いてじっくり覗き込んだのは初めてだったから、女の子みたいな睫毛にちょっとだけ驚いた。
 ゆびさきで目尻に触れる。黒い睫毛が朝日を浴びて白灰色にも見える。ゆびの腹で、つぶすように睫毛を押したらくすぐったそうに震えるような瞬きをした。
 
 いつもは穏やかな笑みを絶やさない志貴さまだけど、不意に見せる表情はひどく子供っぽい。かといって幼いだけでもなくて、ふとした瞬間にどきりとするほど大人びた表情も見せるから、わたしはいつもそのふたつの合間に落っこちておろおろしている。
「……ん、」
 そろそろ起きるのだろうか、薄く開いていたくちびるからちょっと間抜けた息が漏れる。温かな吐息が鼻をくすぐってきて、そのどうしようもない幸福感にわたしの目元は自然と弛んだ。
 こうして、吐息まで感じられる距離にいるのは初めてのことだ。毎朝ちょっとずつ近付く距離。けれどそれは志貴さまには内緒にしているので、すっと躯を離していつものように無表情をよそおった。志貴さまは何度か瞬きをしてからようやくながい睫毛を開いた。
「翡翠?」
「おはようございます、志貴さま」
 こしを直角に曲げて挨拶をすると志貴さまはしばらくぼんやりとしていたけれどやがてにっこりと笑って「おはよう」と応えた。手探りで眼鏡をさがしてかける。揺れるカーテンと、透けた日差しをぼんやりとながめた。
「外はいい天気みたいだね」
「ええ、とても暖かいです」
 そう、と志貴さまは満足げにほほ笑んだ。暖かいと躯も少し楽なんだ――そう言って、ベッドから下りようとする。ちらりとこちらを見て、困ったような顔をした。
「制服を持ってきてくれないか?」
 昨日の朝とまったく同じ台詞だった。だからわたしも、昨日と同じように無表情で「志貴さま」と応える。
「今日は学校はお休みです。もう少しゆっくりしていらしたら如何がです?」
「休み……?」
 志貴さまはぼんやりと髪をかいた。漆黒のひとみがゆっくりと揺らぎ、やがて濁った光をたたえて「そうだったね」と、くちびるが操り人形のように動いた。
「そうだった、休みだったな…」
 でも腹が空いたから朝ごはんは食べておきたいな、と志貴さまは苦笑する。華奢なつくりの眼鏡に朝日が反射して、一瞬だけ志貴さまのひとみが見えなくなった。
「不思議だね、翡翠」
 何かを落っことしたまま、大事なものを見失ったような声色だ。
「いつも誰かと、朝食を食べていた気がするよ……」
 返事はできなかった。志貴さまはしばらくのあいだぼんやりと窓の外を眺めていた。
 
 午後は外に出かけることにした。読書をするといって書斎へ向かう志貴さまには「ちょっと買ってくるものがあるのでありますので」と言っておく。
 
 薔薇が咲きほこる広い庭園をぬけて、豪奢な造りの門扉を片手で押し開く。日差しがじりじりとうなじを焼いた。黒金の門も熱をふくんでいて手のひらに微かな痛みをおぼえた。
 開いた先にあるのは傾斜のある広い道と、山の下にひろがる街の風景――。街路樹として植えられた月桂樹がやわらかな黄色い花をつけていた。だから、空気もやわらかな黄味をおびているようだった。細かな花びらが降りそそぐ中を歩く。素直にきれいだな、と思えて、口に出すとこころが浮き立った。
 最近、自分は浮かれていると自覚している。毎日がたのしくて、うれしくて、少しだけ、苦しい。
 世界はひどく静かだった。誰の声も、車の音も、鳥のなく聲さえも聞こえない。ふもとの街に降りてもいつもの通り人影はなかった。
 なのに以前と同じように建物が並び、お店には商品が並び、道端には花壇がならんでいる。
 まるで人形だけを抜き取った模型都市みたいだ、と思う。音がない世界に最初は気が狂いそうになったけれどもう慣れた。
 今日の夕飯は海老の雑炊にしよう。志貴さまの好みは意外と地味で、雑炊とか煮物が好きなのだ。
 誰も居ない店にはいって新鮮な海老と青菜を手にとる。誰もいないからお金は必要ない。誰もいないけれど、お店に並んでいるものはいつも新鮮だから不思議なものだとぼんやり思う。
 
 これも、神さまの力なのか。
 
 かんがえながら屋敷へ戻った。志貴さまがいる屋敷へ。
 わたしだけの志貴さまがいる世界へ。
 
 
 どうして世界がそうなったのか、わたしにはよく分からない。ただ分かっているのは神さまがわたしの願いを叶えてくれたということだけ。
 願いを聞かれたから応えたのだ。
 
 志貴さまがわたしだけを見てくれるように、と。
 
 願った瞬間、世界から人が消えていた。わたしと志貴さま以外の人が。そこには秋葉さまも姉さんも志貴さまのご友人もいない。志貴さまは毎朝おきるたびにわたしを見つめてくれる。だれもいない世界。秋葉さまも姉さんも志貴さまの先輩も志貴さまのご友人もだれもだれもだれもいない。
 
 遠野の屋敷が見えてきた。無音の世界のなか、わたしはうれしくて、涙が出そうになりながらも笑った。
 
 
 
 神さまにおねがいしたら望んでいたことが叶いました。
 
 だから、これは
 
 
 神さまの所為。
 
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