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日々のぼやき
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 猫を見つけた。
 
 拾ったわけではないけれど自分が彼女を見つけたのだから、今夜ひと晩くらいは自分の物になっても良いんじゃないのか。そんなことを無意識のうちに呟くと子猫は不思議そうにこちらを見あげた。
 薄むらさき色の髪は地面に流れるほど長くて、アスファルトに細いドレープのように広がっている。着ているものは黒いマントにも似たコートで、胸元では白いボンボンが揺れている。月明かりに照らされた肌は驚くほど白くて滑らかそうだ。切り取ったトパーズのような瞳がこちらを見あげる。深い色をしているくせにちっとも表情を映し出さない。
「わたしの飼い主は、もう決まってるわ」
 子猫は呟いて視線を落とす。
 昏い路地裏の外灯の下。フェンスに寄りかかって膝を抱える子猫はもうこちらを見あげない。飼い主以外には特に興味がないと言っているような仕草だった。いや、飼い主と自分が興味のある人間以外は、か。
 何となく、その寂しげな表情が気になってその場にしゃがみこんだ。視線の高さを合わせてかおを覗き込むと子猫は一瞬目をまるめる。大きな瞳だった。顔の半分くらいが瞳なんじゃないかと訝る。
「ひと晩だけよ、一緒に居てくれない?」
「……夢を見たいの?」
 不思議そうな子猫の問いかけに、思わず噴出してしまった。子猫の瞳が一瞬ほそめられたのを見て、誤解させてしまったことに気付く。慌てて「違うの、」と手を振った。何が違うのか、自分でもよく分からないけど子猫はその仕草に納得してくれたようで瞳を緩く瞬かせた。
「夢は見たくないし、それにわたしはもう夢を見られないもの」
 夢を見られない。
 そう言うのは少し寂しかった。もう人間ではないのだ。そんなことは分かっているけれど、自分の言葉で形にしてしまうとその現実はずっしりと重い。
 暗い重圧に負けないように、唇を精一杯引いて笑った。白んだ外灯の光に照らされたのでちょっとホラーっぽくなってしまったかもしれないけれど、子猫は気にならないようだった。
「そうじゃなくて、ひと晩だけ一緒に居てほしいの。わたしのとなりに居てほしい」
「……となりに?」
 子猫は親指をくちびるで食んで、少し考える素振りをした。子猫の恐ろしさを、わたしは遠野くんから聞いていた。その一方で彼女の孤独も、遠野くんから聞いていた。それに子猫が自分の躯をあたためてくれる誰かを欲しているのだということは、一目見ただけで気がついた。
 何にしろ親指を咬んだままじっと自分の膝を抱える子猫はまるで妹みたいにかわいかった。しばらく黙り込んでから不意に顔をあげてこちらを窺う。
「となりに居て、何をすればいいの?」
「そうねえ」
 わたしは立ち上がって空を見あげた。きれいな星空だった。たとえ死徒になっても美しいものを見る瞳は変わらない。アンタレスの赤が網膜に鮮明に焼きついた。
「一緒に星を眺めよっか。今夜の星は、綺麗だから」
「星」
 子猫は鸚鵡返しにつぶやいた。そして、ほほ笑む。
「死徒も、星をみあげるのね」
 寂しげだが、それと同時に心を掴まれるような笑みだった。トパーズの瞳が幼げに緩む。
 
「おんなじなのね」
 
 そのひと言に、胸が張り裂けそうになった。
 
 
 
おわり。
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