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日々のぼやき
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 人間の住む街には様々なごみが落ちているものだが生きている人間を拾ったのは初めてだ。拾ったのはまだ五歳ほどの少女で、名前を尋ねたネウロに「やこ」とたどたどしい言葉遣いで応えてきた。
「ヤコ、か」
 ネウロは道端の電柱に寄り添うように座り込んだヤコの髪をゆびで梳いた。垢と脂で髪はべっとりと絡み付いてくるが、街灯の白色光をあびて香色にきらめく髪は洗ってやれば人並みにはなりそうだ。鼻水の垂れた鼻をすすって、ヤコは上目遣いにネウロを見上げた。
「おなか、すいた」
 やけにやわらかそうなてのひらが腹部を覆い、同時にぐうとかえるの鳴き声めいた腹の音が聞こえてくる。ネウロは着ているコートのポケットを探った。
 ネウロ自身は人の食べ物を食さないが、今日は依頼人から菓子折りとやらをもらっていた。そのうちの殆どは吾代にくれてやったが、チョコレートが一粒残っていたはずだ。
 小さなチョコレートは布地の隙間に隠れるようにしてあった。取り出すとヤコのひとみが爛々とかがやき、ぷよぷよした手のひらがコートの裾を掴んでくる。
「待て」
 今にもチョコレートに飛びつきそうなヤコを手で制して命じる。ヤコは素直に頷いて、けれど目線だけはネウロの手にあるチョコレートを見つめていた。一秒、二秒、三秒。ヤコの口から涎が垂れかけるその直前に、ネウロはヤコを解放してやることにした。鼻先に突きつけていた手を離し、代わりにチョコを口元に運ぶ。
「よし」
 まるで、犬か猫にでも命令するような。
 けれどヤコは歯を見せてにんまりと笑うとネウロの手に飛びついた。チョコレートの銀紙を外してぺろりと舐める。赤い舌がチョコレイトの色に染まっていく様子は、不思議とネウロを落ち着かない気分にさせた。
「美味いか?」
 尋ねると、ヤコはチョコの付いた唇をきゅっと引いて「おいしい」と応えた。鼻にもチョコが付いている。ネウロは微かに笑い、ヤコの鼻をゆびさきで擦った。
 ネウロには体温というものがない。冷たい肌に驚いたのか、ヤコのひとみが一瞬まるまり虹彩の色が薄らいだ。
「付いていたぞ、粗忽ものめ」
 ネウロはヤコをねめつけてから、自分のゆびさきに付いたチョコを舌先で舐めた。ヤコはチョコレイトを摘んだまま、ぼんやりとそんなネウロを様子を眺めていた。
 どこか遠くでクリスマスソングが流れていた。道を行く人々はみんな家路を急いでいて、みなしごとしゃがみこんだ青年などを気にかける者は居ない。
 ヤコはしばらくネウロを見つめていたけれど、やがて首をかしげて「あなたは天使さま?」と尋ねてきた。よりにもよって天使とは。ネウロは思わず鼻で笑った。
「何故そう思う?」
「おかあさんが、天使さまが迎えに来てくれるから待ってなさいって言ってたの。だからあなたは天使さまでしょう? わたしを迎えに来てくれた、」
「残念だが」
 ネウロは立ち上がった。コートに付いてしまった埃を払い、ポケットに手を突っ込む。
「我輩は天使などではない。だから、貴様を迎えに来たわけでもない」
「……そう」
 ヤコが俯く。遠い場所でのクリスマス・ソング。ネウロは牙を見せて笑った。
「だが、」
 ポケットに入れていた手を取り出し、ヤコへと伸ばした。抱き上げた体は軽かった。ヤコが目を見開いてネウロを見つめる。ネウロはヤコを肩口に乗せた。まるで戯れの童話で読んだ、かのクリスマスの男のように。
「我輩は貴様をさらいに来たのだ。さあ、行くぞ」
 ヤコは抵抗しなかった。ネウロの背中に逆さまのまましがみついて、濡れた囁きで「うれしい」とだけ呟いた。
 
 
おわり。
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